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2つのシリーズのオマージュ

 かつて、集英社刊行のコバルトシリーズ文庫で”富島健夫さんのジュニア小説”を片っ端から熟読し、また日本TV界サスペンスドラマの金字塔を打ち立てた”火曜サスペンス”で真犯人探しに明け暮れた青春時代を捧げた?筆者。
 その膨大な作品群で描かれた人間の、ある時は未熟な少年少女のゆれる想いに心ときめかせ、また人間達のしがらみや欲望にゆらぐ心に胸熱くした想いを、オマージュとして書いた小説を公開しようと考えました。

2015年2月27日金曜日

小説 「 なごやん 」


東京での生活に埋もれ、速10年目が過ぎようとしてる、


ヒマして新宿の街をブラブラ、
今日は女に振られて、でも今日はどうしてもシタクテ……ままならない物だと。
でもフーゾクもなぁ、と思っていたら、店脇の貼り紙に記載の電話番号に目が留まる。


地域密着型出会い系はこちら!


何か面白そうだと早速番号を入れてみる、
プププ……(あざといBGM)………………
ようこそ!…へ、……systemの説明……
♪ガイダンスに従って好みの市外局番を押してね!


おお、これぞ地域密着だと変に納得しながら市外局番をを入力、052っと。


♪ガイダンスに従って好みの年齢層を選択してね!


ふむ、同年代で若め……20代前半っと。


♪ガイダンスに従って好みのタイプを選択してね!


そうだな、4番をポチッっと。


♪ガイダンスに従って好みの……
以下省略


……何て長い選択だ?いい加減飽きてきた、


あっやっと終わった。


このままお待ちください……♪はい貴方にオススメの伝言、六件です……一件目………


順番に条件にヒットした伝言が流されるれも怪しいモノばかりだが、一件だけ俺のインスピレーションにピンときたナマエを聞いた。





伊香九沙伊奈……イカ臭いな?


「茶目っ気あってイイねぇ、面白い娘かも……何々?待ち合わせ場所、おっ高田馬場駅、結構近目じゃあないか!」
早速向かった。


階段を登りながら焦るきもちを押さえつつ出口にたどり着く、何人かの出入りがあるが一見それらしい娘は居ない。


スッポカされたか?


と平然を気取って駅を通り抜けようとした瞬間、視線の隅に気になる娘が留まった、直ぐそちらを向いたら彼女と目が合う。
一瞬気まずいか?と思ったが結構そうでもなく、彼女はニコッと笑って手を小刻みに振っている。


「ども!」
「君?」
「私の伝言選んでくれた人かな?」
「ナマエが面白いから」
「ククッ、やっぱそっちが目的なんだ?」
「それほど、でもないよ」
「えー、そうなの?」
彼女はニヤニヤしながら俺を観察している、目は俺の目から離さない。
ここで逸らしてはいけない、俺も目を逸らさなかった。
「まあイイや、場合によっちゃあソウなってもイイケド行きたい所あるの、イコっ」
そう言ってとっとと歩き出す。
暫く訳が解らずぼうーっとしていたが、彼女は勝手に緩い坂を降りていく。
こりゃ彼女に引っ張られるなと後悔はしたが今日明日はヒマだし、付いていく事にした。


結局近くのコンビニに行きたかったらしく雑誌を立ち読みしその一冊、ファッション紙と肉まんを3つ買って店を出るまでの30分付き合わされる。
最初はやや後ろから、次第に真横に並んで歩きながら彼女をやっと観察できた。
ショートが似合う、A○Bのあっちゃん似の顔、結構カワイイけど何か思い詰めてるような真剣な目が惹かれる。
「ホンとに失敗無しで、こんなカワイイ娘とデキるのかぁ?」
そう思う、話が旨すぎるとも思うが、その一方期待も膨らむのだ、
「コリャこのまま朝まで振り回されて、実は高校生なんだ!とか言われてポイされるな」
と繁々彼女を見てると、見透かすように
「大丈夫だよ!まだ夜は長いから、ね?肉まん食べる?」
そう言って、一つ袋から出して突き付けてくる、面食らったが辛うじてまだ暖かいそれを受けとる。
肉まんを食べ終えた頃彼女は携帯をしている、どうやら友達にコンタクトしてるようだが良く聞こえない。
「じゃ!」
そういって切る、直ぐ様俺に向かって、
「もうすぐトモダチが迎えにくる、車に乗るから」
おいおい、二人だけじゃないのかよ!とツッコミかけたかったがウジウジしてる間に車がやって来る、彼女は手を振って躊躇無く止まった赤いVWポロに乗り込む。
ここまでかと諦めて立っていると、
「一緒に来ないの!ここで別れる気?」
どういうつもりか解らんが乗り掛かった舟だ、とことん付き合ってやると腹を決めて後部座席に飛び乗った。


「この雑誌見た!」
「これ私も欲しいの」
「見に行こ?」
乗車後俺は全く茅の外状態であった。
彼女は、トモダチと何時ものように会話に夢中になっている。
散々話しまくり、ショッピングを楽しんだ後今更のように連れが俺に気づいたように、
「沙伊奈、彼なの?」
「後で用が有るから付き合ってもらってるの、一緒にいるけど気にしないで」
連れがこっちをみるので、反射的に愛想笑いが出る、それに構わず彼女は、
「あーん、これヤッパリ欲しい!思いきって買おう、あ李々子!信号青だよ」
トモダチもその言葉にハッとなって目線を前に戻し、
「お金がなぁ」
と元の会話に戻る始末、しかし会話の内容からタカられそうな様子だ……とヒヤヒヤしたがその後もそのような事は無く、彼女は散々迷ったあげく俺に結論を求めてくる。
「ね、素敵じゃない?似合うかな」
応えに迷ったが、
「センス良いと思うよ」
と言うと踏ん切りがついたようで、自腹で買ってきた。
ニコニコした笑顔が何か、純粋に可愛いなとこっちまでもらい笑いをしてニヤニヤしている始末だが心では、


早くセックスしてぇ!


とその一方で、


いやいや、今は忍の一字じゃ!


と悪魔と仙人が闘っている、
暫く紐のようについているが彼女の性格が良く解るようになってきた、見た目も悪くはないが性格も悪くは無さそうだ。
こうして振り回されるのは迷惑この上ないが、時々ちゃんとこっちに目をかけていて彼女なりに気を使っているいるのが分かるから、それほど彼女に悪い印象は無い。


その後もトモダチと別れた後で理由を聞こうとは思ったが、映画に誘われ腕を組まれたのでどうでも良くなってしまった。
この時点で彼女は今までと違って急に親しくし出した、今まで警戒してたのか値踏みをしてたのかもしれない。
「この映画みたかったんだ」
「もう今週で終わるヤツでしょ?何で我満してたのさ」
「だって、独りで見るの寂しいもの……」
その言い方が愛しくて思わず肩を抱いてしまう俺、彼女も満更でもないのか頭を腕に寄せてきた。


この姿を周りの人が見たらまちがいなく恋人同士と疑わないだろう、そもそも一時の下心から利用したサイトだったが、思ってもみなかった展開になっていた。


二人で映画を観てー最後にはホテルーかと言うとそうはならず、ずーっとホテル街を歩いて抜けて気が付いたら地下鉄で3つの駅の距離を無駄話に花を咲かせて、夜通し歩いたのだった。
端から見ればおバカな二人だと思うが、その時はそれはそれで結構楽しかった。
うっすらと空が白みかけてくる、周りには二人だけが町中から少し外れた住宅地街を歩いていた、もういい加減眠たくて歩き疲れている筈の彼女も気持ちがハイになってるのか、ちょっとしたジョークでもコロコロと笑ってくれる。
気持ちの優しい朗らかな娘だと感じて、やがて不思議な感情に囚われていた。
この後確実に別れる時がくる、でももっと彼女を知りたくなっていた。
一夜中振り回されてなんの欲望も満たせなかったのに、だ。
別れるのが嫌なのは欲望とは違う何かがあるからだ、
それは何だろう?
惚れちゃったのか?
イヤイヤ兎も角結論は急がないことにした。


辺りはもう朝だ。
新聞配達のお兄ちゃんが俺たちとすれ違い、カラスが道端のゴミを漁っている。
俺が大きなあくびをした時、彼女が立ち止まった。
そしてくるっと俺に振り返って、
「ここが、あたしん家」
「エッ?」
少し、いやすごく驚いた。
一晩しか一緒に居なかった男に都会の娘が自宅を教えたのだ、
「楽しかった、登録しといてヨカッタ」
「何もしてあげてないよ」
「ううん、私には濃い一日だったよヨ」
「はは……そっか?俺も疲れたケド、楽しかったな」
突然に始まる別れの時、そう迫られると正直にまだ一緒に居たくなる。
彼女も真剣な俺の目に逆らえないのか、目を離さない。
暫く沈黙、
雀の声が空に響いていた。
我慢できずに沈黙を俺から破る、
「未成年じゃないよな?」
思わず不安が口を突いた、すると彼女は前を向いたまま、
「そう言うのがイイって男いるけど、アナタは違うの?」
「正直嫌いじゃないさ、でもちゃんと紹介かなにかで会ってじゃなきゃあり得ないよ」
「予め言っておくケド私リアル21だから」
「思ったより若いね」
「いくつだと思ったのー?」
「24、5かな、大人っぽい」
「嬉しいかも」
「この歳で、お子ちゃまはツラい」
「貴方は、三十前?」
「正解!来年三十路だ、あーあ」
「ナマエ聞いて無かったね」
「そっか、俺、佐藤修吾」
本当のナマエを名乗った、今更偽名もメンドクサイし、彼女には知って欲しかった。
「本当だよ?何なら免許証見せるよ」
「ううん信じるよ、私は沙伊奈でいいよ」
「イカクサイナ、ってウケ狙いの仮名だとおもってたけど!」
「本名は猪飼沙伊奈、一文字違いだけどね、名前はほぼ本当だったの」
「結構中学の頃にからかわれてた?」
「ヒッドーイ!当時誰もそんな事気づかなかったわ、最近さっきの李々子に言われて気づいたの、それに私小中高校生と女子高だったしね」
「共学でなくて、ヨカッタな」
「ホンとそう、……ねぇ今日は予定ある?」
「無いんだこれが」
「私、修吾さんともう少し居たいな」
「俺も物足りなかったトコ」
「やった!じゃあ契約続行かな?」
「文句無し」
「じゃ、ちょっとここで待っててくれない?帰っちゃヤダからね!」
「今更逃げないよ」
沙伊奈は、俺が持ってあげてた荷物を奪い取るように持って、急いでコーポの中に消えていった。


待つこと40分程、彼女が現れたがその姿を見て驚いた。
昨日買った服を着ていたが、それと大きなボストンバッグを持ってきたのである。
日帰り旅行にはちと大きい、思わず尋ねるが直ぐには答えず取り合えず朝食に行こうと、最寄駅近くのマックに入った。
「で?それ何」
「私、今日で東京を離れるの」
「えっつ!」
思わず、テリヤキバーガーをくわえたまま固まる俺、訳が解らずにいると、コーヒーを一口飲んで沙伊奈は説明する。


高校卒業後、夢を諦められず親の反対を押しきって上京したものの夢叶わず期限を切られていたこともあって、三年目で帰郷せざるを得なくなったという。
最期に責めて彼氏を作りたいが、見つからず焦って出会いサイトに登録するという暴挙に出る、しかし連絡が来るのは一時の快楽目的見え見えの連中ばかりだったと言う。
「イカクサイナだよ?どう見てもそっち目的でしょう」
「だって李々子が、ゼッタイウケるって」
「ヒドイ事件に巻き込まれると思わなかった?無謀杉」
「スッゴク慎重だったもの、李々子にも助けて貰ったし」
それで昨日の様な展開になったのか、と何と無く合点がいった。
「それにこんなコトしたから修吾さんに会えたんだよ、自分で納得行くまで引っ張り回したけどさ」
やっぱり、散々ひっぱり回して試していたんだなと今にしてみれば納得しながらも、
「でも、俺に本当の事を言ったってことは」
「イイ人だと思えたから」
「で?合格かな」
「かな」
俺は深いため息をついて、項垂れる。
沙伊奈は申し訳なさそうに神妙になる、
「私だって必死だったんだヨ、名古屋っ娘は物凄い慎重なんだで」
「えっ?沙伊奈、名古屋出身なの?」
「そうだよ、正確に言うと岡崎市だけど」
「うほっ、マジ?実は俺も愛知なんだって」
「わっ、ホンとにぃ!どこどこ?」
「一宮市、この出会い系でも地域を選べるから、懐かしくなって申し込んだもん」
「そうやったんだ、満更偶然でもないね」
「沙伊奈の会話に何か聞き覚えある訛りがあったからかな、心が暖かくなったのは」
「そう?やっだぁー」
思いもよらない事実が更に二人を親密にしたと思う、でも別れは近づいてくる。
その時沙伊奈から思いも寄らない申し出があった、それは……


「おっこれ、なごやん!まだ売ってるんだ、懐かしー」
午後2時。
品川駅ナカで二人で土産物を見て回る、沙伊奈は45分発の大阪行ひかりに乗る事になっていた。
「後で食べて」
「土産貰って大丈夫かぁ?」
「バカね、名古屋に戻る人がなごやん買って帰るかなぁ、土産はホラ、ヒヨコ」
「ベタだなぁ!」
「名古屋じゃまだウケるの、あそろそろホーム行かなきゃ」
ホームに辿り着くと、間もなくしてここ始発の新型ひかりが、ゆっくり滑り込んでくる。
暫くホームで何も言わず向き合った、
「先帰ってるね?浮気したらポイだぞ!」
「Uターン就職して帰るさ」
「後でメールするね」
そう言いながらも、目を離さない沙伊奈、
俺は返事の代わりに沙伊奈を抱き締めた、二日前までは他人だったのに。
今この瞬間は、まちがいなく恋人だった。


何も言わず離れた。
後ずさりするようにひかりに乗り込む彼女、
発車の知らせが鳴って間もなくドアが締まるだろう、その間際に沙伊奈が俺の唇を彼女の口で塞いだ。
ぼうーっとする俺。
その隙にドアが締まる、ドア越しに暫しの別れを惜しむ、
ひかりはゆっくりと西に向かって進みだした、後はお決まりの光景だ。


やがて、カーブの向こうに消えていくひかりを見送って一瞬静かになったホームを後にする、直ぐに何もなかったように雑踏が戻った。


その時、直ぐメールキタッ!
速っつ、と思いつつも慌ててスマホにしがみつくように返事に食い入る俺、
「ちゃんと口は封印したからね?今度会うまでは解けないから、こっち来たらゆっくりと解いてアゲル、ねっ」
思わず自分の口を指で撫でて、苦笑する。
「そうだよな、こっちも気持ちイイ事おあずけだったしな!覚えてろよ、今度会ったらこっちが寝かせないからな?」


そう呟いて、西の空目掛けて指ピストルを発射した。


おしまい

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